日曜の朝、麻素材の短パン、
無地のしわくちゃTシャツに腕を通して向かったのは茅ヶ崎。
昨晩はちょっと飲み過ぎた。
学生時代の波乗り仲間から電話があり、ハンズフリーのスマホで聴いたのはカラパナの未発表音源だった。
洋子が持ってきてくれたチープなウイスキーのコーク割りを飲みながら、カラパナのサウンドを楽しむはずが、グラスの中のかち割り氷の音がカチカチと音がして、心地いいはずのコンガの音と混じり合ってせっかくのサーフミュージックが台無しだった。
「洋子、氷は細かくクラッシュして…。」
「雨だれの音にも気がつかないのに、まったく…。」
「あしたの約束覚えている?」
「覚えているよ!」
と覚えてもいないのに返事をするのはいつものこと。
30分ほどで、Southern Beach Cafeの駐車場に着いたときには、ほぼ満車に近い状態だった。これで満車で入店出来なかったら、洋子の機嫌は1日中悪かっただろう。
「いつものテラス席は空いている?」
「はい、空いています。どうぞ、あちらへ!」
早朝にひと波乗ってきたかのようなサラサラヘアの店員に案内されてテラス席へ。
いつものものを注文したあと、
「サイクリングロードの先で工事してるけど。何か建つの?」
「よくわかんないけど、なんか茅ヶ崎らしいモニュメントを作ってるみたいですよ。」
洋子が月の初めの日曜日にここに来たがるのは、月例の湘南マラソンがあるからだ。
中学、高校と陸上部だった洋子は、数ヶ月前からジョギングを始めた。秋以降のレースにエントリーするらしい。
8時40分
先頭を走るランナーが顔を歪めながら近づいてくる。2m後ろを走るランナーは上半身ハダカでスイミングパンツ姿。月例湘南の常連ランナーだ。
「ファイト!」
陽子は、そんなランナーに声援をおくる。
「健一も走らない?」
「オレはいいよ…。」
「部屋にこもって、売れない曲を書いているよりは健康的だし…。」
「…。」
「ゆっくりジョグから始めて、1日、1日、積み上げていくことで、きっと走ることが楽しくなるから。」
「うん、かんがえておくよ。」
しおさいの森で折り返してきたトップランナーが戻ってきた。トップで現れたのは上半身ハダカの常連ランナー。先頭を走っていたランナーは、その後方3mをさらに顔を歪めながら走っている。
「ナイスラン、ガンバって!」
大好物のラクレットチーズフォール、
バーガーからこぼれ落ちた、たっぷりのラクレットチーズが少し堅くなってことにも気がつかず、大きな声で手を振りながら声援をおくっている。
そんなに夢中になれるんだ…。
洋子が一緒にここに来たがっていたもうひとつの理由を知ったのは、
半年後、大磯に向かう電車のなかだった。
この物語は フィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係 ありません。
んでば、まだ👋