オフショアの風を感じて
発売になったばかりのアイスカフェモカの氷も、この暑さじゃ、すぐに溶けるだろう。義男はそんなことを思いながら助手席に座っていた。
運転席の彼女はカップを揺らしながら言った。
「ここでは、どんな仕事をしているか、地位なんて意味がないわ。意味があるのは、いい波に乗るってことだけだと思う」
ひとくち飲んだあと、さらにこう続けた。
「でも…いい波に乗っても仕事がうまくいくとは限らないわね。」
「きっと、あなたの弾くギターからファンキーなフレーズが次々に飛び出すだけね」
「このアイスカフェモカ、意外にイケるよ、飲む?」
そんな彼女の言葉が終わらないうちに、義男は助手席のドアを開け、防風林に立てかけてあった9フィートの板を抱えて、ビーチに駆け出した。
10年ぶりの波乗り。
「相変わらずね…。
きっといい波を見つけたのね。」彼女はボソッとつぶやいた。
義男は最初のセットを見つけると、アウトサイドへパドリングし、レギュラーの波をつかまえて、ライドオン。
グーフィーフッターの湘南ガールは、見事なバックサイドで、必死にパドリングする義男を横目に笑顔でカットバックを決めていた。
この物語は フィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係 ありません