助手席に座った楓子は、おもむろにカーエアコンの温度を2度も下げた。
「まったく、ひとこと言ってからにしろよ!」
そんな小言を無視するかのように、
「暑いから、スタバの新作でも飲もうよ!」
車で出掛けるときはいつもそうだ。
暑いから、新作が出たから、そんなことは理由でもなく、助手席に座ったら飲むものだと決めているのだろう。
数百メートル先にあるドライブスルーのスタバに到着すると、ルノー トゥインゴの助手席からマイクに向かって、
「新作フラペチーノとアイスコーヒーをひとつずつ」
「アイスコーヒーは、ミルクなしのベンティーで!」
「大きいのでいいでしょ?」
自分だけ高いものを注文することに引け目を感じているからなのだろう。楓子はいつも特大サイズを注文する。
県道46号線をひたすら南下。
圏央道をくぐり交差点を右折し、リバーサイド沿いの道をさらに南下する。
ウインドウを開けると爽やかな風とともに河川水と海水が混じった初夏の香りが室内に入り込む。
右手にリバーポートマリーナが現れ、楓子が新作フラペチーノを勢いよくすすりはじめたかと思うと、まもなく目的地の「湘南マリーナ」が見えてきた。