神宮外苑の銀杏並木が黄色く色づくのはまだまだ先だろう。外苑のお祭りでバイトをしたのはいつだったか…。健一はそんなことを考えながら銀杏並木を歩いていた。
10月1日の会社訪問解禁日になり、第一志望の代々木にある会社を訪問して、そのあとゼミの先生が薦める千駄ヶ谷にある会社に徒歩で向かった。ここはあまり気乗りしない会社だった。
千駄ヶ谷から神宮外苑の銀杏並木に来たのにはもちろん理由があった。午前中、渋谷で研修があったさえから、神宮で待ち合わせして遅いランチでもしようと誘われたからだ。
健一は、「通り沿いのバカ高いオープンテラスのカフェなんかで食事なんてしたら小遣いがなくなってしまうよ!」と断るつもりだっただったが、「お弁当作って行くから一緒に食べよ!」と言われ、それならと神宮まで出かけてきた。
約束の時間より少し早く着いたさえは、銀杏並木の入口にある石垣の前で青山通りを行き来する車を眺めていた。
「遅くなってごめん」
「えっ…。」
見慣れない健一のスーツ姿にちょっと驚くさえだったが、すぐに「感触はどう?」と会社訪問の様子を聞いてきた。
「うん…。」
さえはオープンテラスが正面に見えるベンチを見つけ、「あそこで食べよっ!」
L.L.Beanのトートバックからレジャーシートを取り出し、ベンチに敷き、その上にお弁当を広げながら、「その会社って、初任給はいくら?」「社宅とかあるの?」
目の前をまったく生活感のない女性が大きな犬を連れて散歩している。白いシャツにブルーのセーターをプロデューサー巻きしている男性、コーヒーカップの横にはBのマークが入ったキーフォルダー。
さえのリアルな質問と目の前の現実離れした風景に戸惑いながら、健一はまだ色づいていないイチョウの木を見上げていた。
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